toggle
2011-05-21

「福祉医療建築の連携による住居改善研究会」の記念講演

 今回は、北が参加している特定非営利活動法人「福祉医療建築の連携による住居改善研究会」の例会の記念講演で、大阪市立大学 三浦研先生の講演に行ってきました。お話しされた中で、印象深かった2点の話を紹介します。

■個室ユニット特養の経緯と現在の状況

2002年にユニットケアが制度化され約10年経過し、取り巻く状況が変容してきている。導入時から熱が冷めて、いくつかの議論が起っている。

1.低所得者が入所できない。
2.従来型運営者の反発。
→ユニット型であっても、必ずしもよい事業所であるわけではない。従来型でもよい事業所もある。
3.介護従事者の確保が困難。
→リーマンショック前は、景気が良くて人員確保が課題だった。
4.制度化のパラドックス
→制度化することにより、よくない事業所も参入する。
5.地方分権一括化法案により、居室定員は参酌すべき基準となった。

1.については、従来型よりユニット型のほうが建設費が格段に高くなると考えがちであるが、実際には必ずしもそういうわけではない。

厚生労働省 国立保健医療科学院 井上由起子氏の研究によれば、1床あたりの延べ床面積は、
    従来型(10.65m2) 44.7m2/床
    ユニット型(13.2m2) 54.7m2/床
であり、差は10m2である。

建設費において、従来型の方が仮に坪単価5%安くなると見積もって、
    従来型(10.65m2) 1000万円/床
    ユニット型(13.2m2) 1300万円/床
となり、劇的に増えるわけではない。

これに対し、居室代として請求される金額は、
    従来型(10.65m2) 6万円/月
    ユニット型(13.2m2) 1万円/月
になっている。

これは、ユニット型に要求されている職員配置が、
    従来型 利用者2.52人:職員1人
    ユニット型 利用者2.04人:職員1人
とされており、この人件費を反映した介護報酬となっていないため、居住費で人件費をまかなっているという状況である。

建設費で見ると従来型もユニット型も大差はない。従来型は2002年以前に建設されたもので、多くは建設費の3/4程度の補助金があり、建設費は償還されているためこの金額で成立していると考えられる。

したがって、低所得者も入居できるようにするためには、1室あたりの面積を下げる(13.2m2→10.6m2)ほか、ユニット定員を増やす(10名→12名)ことが効果的である。

■高齢者住宅/施設の床のやわらかさ

老健や老人病院では、職員や入居者が運動靴などを履いている場合が多い。一方、小規模多機能やデイサービスでは、スリッパや靴下のことが多い。高齢者にとって、靴を履いて食事をしたりくつろぐという状況では、自宅であると感じることが難しいのではないだろうか。運動靴などになるのは、移動距離が長いことと床が固いことが起因していると考えられる。

床が固いと転倒したときに大腿骨骨折などにつながる可能性が高い。RCの床よりも二重床にしたり、木造などの場合、床の衝撃性は柔らかくなるという結果がでている。床が固くなるのは、車いすを前提にして、床に耐久性を求めてしまうためである。
座位を低く保つことにより、密度の高い居合わせ方が可能となり、車いすを使わない=ハイハイなどの移動を可能とすることができる。このためにも、木造のフローリングや畳などの柔らかい床が望まれる。

—-

以上が、三浦先生の講演の内容の一部です。いつも感心するのですが、三浦先生の講演では、すべて根拠となる数字が示されていて、納得させられます。
ちなみに、木造床のデータは、ほのぼの旭ヶ丘の家のデータもありました。柔らかいという結果が出ていました。木造の方が暖かみがあって家庭的だと普段感じていることが、数字に裏付けられると説得力が増していきます。

関連記事