農と住の間の住まい


玄関庇と光が漏れる上部FIX窓が来客を迎える。




視覚的な広がりを優先し二間のFIX窓とした。季節によって日の出の位置が変わっていくのが感じられる。

冬の夜は薪ストーブの火とほのかな灯りで時を過ごす。


縁の間は農地と住まいをつなぐ役割をしており、靴を脱がずに休憩できたり、作業スペースにもなる。

軒先に雨樋はなく、雨垂れが直接落ちて排水される。ここでは季節や天候の変化を感じながら生活する。

広く持ち出した軒下空間は薪置場となっている。





上部FIX窓から漏れる温かい明かりが家族を迎える。


説明
大阪府富田林市の市街化調整区域に立つ農家住宅です。周囲が第一種農地であったことから農地転用が難しく、駅からの距離など地理的条件や住まい手の状況の審査を経て、農地を最低限の広さに分筆、接道の許可などを経てようやく建築に至りました。当初から建物完成まで6年の歳月を要していますが、その甲斐もあって東側を流れる石川沿いに緩やかに傾斜するサイトから金剛山系を望む、という絶好の景色を手に入れました。「農と住の間」には2つの意味があり、1つ目が農地を住宅地との境界に建つという意味になります。
建築主は兼業で農業を営む夫婦で、山登りが共通の趣味で、奥様は将来お茶の教室をしたいという希望がありました。このサイトでは建物を東側に開くことは必然ですが、これだけ農地が広がる場所で、大きく開放するとすぐに室内が虫だらけになってしまいます。結果、網戸が必須となり網戸越しの景色になってしまいます。そこで敷地の関係性を整理し、東側は景色を楽しむためと位置づけてFIX窓とし、縁側はリニアに設けるのではなく、南側にまとまった半屋外スペースとして設け、出入り動線をそちらに向けました。ここを「縁の間」として住宅屋内と南側の農地をつなぐ「間」と位置付けました。「農と住の間」の2つ目の意味はこれらをつなぐ「間」を意味しています。まとまった縁側を設けることでイスやテーブルを出して過ごせたり、農作業の休憩や作業スペースなど多機能な場所と想定しています。
また茶の間をL型に突出して配置することで、茶室としての独立性を高め、北側の農道との区切りにもなっています。L型によって囲われた内庭ができることでリビング・ダイニングと南側農地との距離も保っています。縁の間はお茶会の際の待合いとしても位置づけていて、一旦縁の間に出て、内庭の露地を通って躙り口に至ります。
時間をかけて計画する中で、最終的に郊外で農業に関わり、趣味も持ちながら仕事や生活するという、場所とライフスタイルに応じた住まいのかたちを提示することになりました。
場所
大阪府富田林市
構造規模
木造平屋建て 120.08㎡
時期
2023年10月 竣工