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2025-04-28

農と住の間の住まい

農道側からの外観。外壁は焼杉板、野地板は国産杉CLTパネル(Jパネル)として軒・ケラバを持ち出している。緩勾配の大きな屋根で全体を包み、外壁を保護しながら、外周の軒下空間を活用可能な余白の場としている。前庭のグランドカバーはクローバーで、玄関のモミジの株立と共に農道と家との緩衝帯となっている。
玄関アプローチを見る。クローバーと木々のゲートを通り玄関に至る。
玄関庇と光が漏れる上部FIX窓が来客を迎える。
玄関内部から農道側を見る。モミジ株立がアイストップとなっている。扉を閉めていても、上部の窓からの光や枝葉の動きで外の気配が感じられる。
リビングから縁の間とその先の農地を見る。登り梁がガラス欄間越しに連続し、広がりと繋がりを感じさせる。
東から南に景色が連続する。南側の山の中腹には願昭寺五重塔も見える。
キッチンから東を見る。正面に見えるのが葛城山で右奥に見えるのが金剛山。
視覚的な広がりを優先し二間のFIX窓とした。季節によって日の出の位置が変わっていくのが感じられる。
ダイニングからリビング側を見る。
冬の夜は薪ストーブの火とほのかな灯りで時を過ごす。
寝室。南東方向の窓から朝日と景色が見られる。
南側の農地から建築を見る。
縁の間は農地と住まいをつなぐ役割をしており、靴を脱がずに休憩できたり、作業スペースにもなる。
建物の周囲には水が流れる道となるよう透水管と砕石を敷き込んでいる。
軒先に雨樋はなく、雨垂れが直接落ちて排水される。ここでは季節や天候の変化を感じながら生活する。
L字型の平面配置により幹線道路側である西側、農道がある北側との関係を区切り、L型部分にできた内庭により東側農地との距離を取り、視覚的に開放している。
広く持ち出した軒下空間は薪置場となっている。
縁の間からダイニングと内庭を見る。外構の石や枕木は建築主の父親がストックしていたものを実測してレイアウトした。縁の間はお茶会の待合いと見立てており、躙り口に向かって露地を設けている。
茶室の躙り口側を見る。下座側の登り梁1スパンは野路板表しとして、掛込天井の代わりに座敷のヒエラルキーを表現している。連子窓を模した障子を開けるとモミジが見える。茶道口側の襖紙は建築主が唐長で選んだ唐紙を使用。
茶室の床の間方向を見る。床座の場であり天井高を抑えた空間としており、登り梁間に天井板を張っている。裏千家・又隠の間取りを参照しているが、客間としても想定しているため六畳間としている。
趣味室奥から玄関側を見る。山登りや自転車などアウトドアアクティビティが趣味のご主人のスペース。玄関から土間が続き土足のまま出入りしてアウトドア用品が収納できる。壁は有孔ラワンベニヤ張としDIYしてもらえるようにしている。
アプローチの夕景。
上部FIX窓から漏れる温かい明かりが家族を迎える。
配置図兼平面図
断面詳細図

説明

 大阪府富田林市の市街化調整区域に立つ農家住宅です。周囲が第一種農地であったことから農地転用が難しく、駅からの距離など地理的条件や住まい手の状況の審査を経て、農地を最低限の広さに分筆、接道の許可などを経てようやく建築に至りました。当初から建物完成まで6年の歳月を要していますが、その甲斐もあって東側を流れる石川沿いに緩やかに傾斜するサイトから金剛山系を望む、という絶好の景色を手に入れました。「農と住の間」には2つの意味があり、1つ目が農地を住宅地との境界に建つという意味になります。
 建築主は兼業で農業を営む夫婦で、山登りが共通の趣味で、奥様は将来お茶の教室をしたいという希望がありました。このサイトでは建物を東側に開くことは必然ですが、これだけ農地が広がる場所で、大きく開放するとすぐに室内が虫だらけになってしまいます。結果、網戸が必須となり網戸越しの景色になってしまいます。そこで敷地の関係性を整理し、東側は景色を楽しむためと位置づけてFIX窓とし、縁側はリニアに設けるのではなく、南側にまとまった半屋外スペースとして設け、出入り動線をそちらに向けました。ここを「縁の間」として住宅屋内と南側の農地をつなぐ「間」と位置付けました。「農と住の間」の2つ目の意味はこれらをつなぐ「間」を意味しています。まとまった縁側を設けることでイスやテーブルを出して過ごせたり、農作業の休憩や作業スペースなど多機能な場所と想定しています。
 また茶の間をL型に突出して配置することで、茶室としての独立性を高め、北側の農道との区切りにもなっています。L型によって囲われた内庭ができることでリビング・ダイニングと南側農地との距離も保っています。縁の間はお茶会の際の待合いとしても位置づけていて、一旦縁の間に出て、内庭の露地を通って躙り口に至ります。
 時間をかけて計画する中で、最終的に郊外で農業に関わり、趣味も持ちながら仕事や生活するという、場所とライフスタイルに応じた住まいのかたちを提示することになりました。

場所

大阪府富田林市

構造規模

木造平屋建て 120.08㎡

時期

2023年10月 竣工

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